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摺動部に使われるめっきとは?

摺動性を高める表面処理の種類

摺動部の性能を維持・向上させるには、素材そのものの特性だけでなく、表面処理による工夫も重要です。特に、高温や高荷重、潤滑剤を使えない環境では、表面処理によって摩擦や摩耗への耐性を高めることが求められます。

ここでは、摺動性の向上に効果的な表面処理として、代表的な6つの方法を紹介します。

1.硬質クロムメッキ

硬質クロムメッキは、摺動部品の耐摩耗性や耐食性、摺動性を向上させるために広く用いられている電解メッキ処理の一種です。摩擦係数が小さいことから、ピストンリングやシリンダーライナーなど、高圧・高温環境下で使用される部品に多用されています。

ただし、クロムメッキ同士が直接接触すると「かじり」と呼ばれる現象が起こり、双方が急速に摩耗してしまうリスクがあります。このため、摺動する部品の一方にのみクロムメッキを施す設計が一般的です。

また、電解メッキの特性上、凹部や穴の内部などには均一な膜厚を得ることが難しいという課題もあります。精密部品では、専用のジグを用いるなど、工程管理が重要になります。

2.無電解ニッケルメッキ

無電解ニッケルメッキは、電気を使わずに化学反応でニッケルを析出させる表面処理です。電解メッキとは異なり、部品の形状にかかわらず均一な膜厚を形成できるため、穴部や複雑な凹凸のある摺動部品にも対応可能です。

この処理では、リン(P)を含むニッケル皮膜が形成され、非晶質構造によって高い耐食性が得られます。また、300~400℃で熱処理を加えることで硬度が大幅に向上し、摺動性と耐摩耗性がともに高まります。

テフロンやセラミック粒子を含有させた「複合めっき」も可能で、低摩擦や撥水性、耐熱性などの特性を付与できるので、ギア、金型、軸受などの高精度部品への適用実績も豊富です。

一方で、処理時間が長く、コストがかさむ点は考慮しましょう。

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3.テフロンコーティング

テフロンコーティングは、フッ素樹脂を母材表面に塗布・焼成することで、滑りやすい皮膜を形成する表面処理方法です。摩擦係数がきわめて低く摺動性に優れると同時に、非粘着性や耐薬品性、耐熱性、絶縁性など多くの機能を併せ持っています。

コーティング方法には、プライマーを併用した「2コート方式」と、樹脂をブレンドした「1コート方式」があります。2コートは性能に優れる反面、密着処理が必要で、手間とコストがかかります。1コートは簡単に行えますが、摺動性や耐薬品性はやや劣ります。

テフロンコーティングは硬度が低く、機械的な衝撃には弱いため、摺動部の条件によっては不向きな場合もあります。高精度な滑りが求められ、かつ過度な荷重がかからない部品においては有効です。

4.インジウムメッキ

インジウムメッキは、軟らかく融点の低い金属であるインジウムを表面に処理する方法で、主に摺動性や密着性、耐硫化性を高める目的で活用されます。インジウムはナイフでも切断できるほどの柔軟性を持ち、セラミックスやガラスにもなじみやすいです。

この特性により、インジウムメッキはベアリングなどの摺動部品において潤滑性と密着性を高めるために用いられます。また、スズとの合金化によって低融点はんだとしても活用され、エレクトロニクス分野でも重要な役割を担います。

耐食性・耐アルカリ性・耐摩耗性にも優れており、変色防止や焼き付き防止を目的としたコーティングとしても適しています。

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5.錫メッキ

錫(スズ)メッキは、柔軟性と潤滑性を兼ね備えた表面処理で、摺動性を向上させるためにエンジンピストンや軸受などに広く使用されています。皮膜は柔らかく、摺動面に適度に追従しながら摩擦を低減します。

特に注目されるのは、錫の自己潤滑性による低摩擦性です。硬い金属表面に錫メッキを施すことで、滑り性が大きく改善され、摺動部品の寿命延長にも寄与します。耐食性や装飾性も高く、多機能で扱いやすい表面処理として、古くから幅広く利用され続けています。

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6.硬質銀メッキ

硬質銀メッキは、電気伝導性と耐摩耗性を兼ね備えた表面処理であり、工業用途を中心に高い評価を得ています。特に電気自動車(EV)の充電端子や高電流部のコネクタにおいて、優れた導電性と接点信頼性を発揮します。

銀は金属の中で最も低い電気抵抗を持つので、通電ロスを最小限に抑えることが可能です。そこにセレンやアンチモンなどを添加して硬度を付与し、摺動部品としても使用できる耐摩耗性を実現しています。反射特性や抗菌性にも優れるため、電子機器だけでなく照明、医療機器、装飾用途にも応用されています。

ただし、銀は硫化によって変色しやすい欠点があり、使用環境や保護処理に配慮が必要です。摺動性と電気的機能性を両立したい場合に、硬質銀メッキは有力な選択肢の1つです。

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